連鎖

 

小さい頃、母親から

 

『アンタは本当に要領も悪いし、いつまでたっても友達もできない!そんなんでこれからどうすんの!?』

 

と責められ、外で遊ぶことを強要されたり

 

好きでもない習い事を沢山させられた、というAさん。

 思春期に入ると

 

『私はすごく変なのかもしれない』

 『私は周囲から浮いた存在ではないか』

 

と悩み、ずっと人間関係に自信がなくいつも人目が気になっていました。

 

 

大人になっても

 いつまでも母親の呪縛から逃れられず

 結婚も急かされた上での事。

 

 

間もなくしてお子さんも産まれましたが

 数年で離婚することになり、

 実家にお子さんを連れて戻りました。

 

 

 

お子さんは、一人で遊ぶのが好きで

 公園などに行っても、

 自分からは人の輪に積極的に入ろうとしません。

 

周囲の子の行動と違うと感じたAさんは

 

『この子はおかしいのではないか?』

 『これではずっと友達もできないのではないか?』

 

と、お子さんの性質が不安で常に気になって仕方ありません。

 

 

 

Aさんの母親は、孫が積極的な性格でないことに対し、

 

『可哀そうに。アンタの性格のおかげでこの子までこんなことになっちゃったんだよ!』

 『アンタがいつまでもしっかりしないから!』

 

とAさんを責めるのでした。

 

 

 

ある日

 

Aさんが職場の同僚への言葉に対し、

 『配慮が足りなかったかもしれない』と、

 後悔で憂鬱な気持ちを母親に話しました。

 

すると、

 

 『全く…なんでいつもアンタはそうなんだよ。子供の頃から何も変わってないんだから!』

 

と言われました。

 

特に子育てするようになってからのAさんは、

 母親のそのような言葉に激しい怒りを感じるようになっていました。

 とは言え、母親の性格は今更どうしようもない、と

 諦め、大抵は聞き流していたのです。

 

ただ、その日は

 『そんな言い方しないでよ‼‼』

 と強い口調で言い返しました。

 

 

そのあと、すぐに母親の側を離れましたが

 イライラは治まらず、

 一人で本を読んでいたお子さんに向かって

 

『アンタがそんな風だからお母さんはおばあちゃんに文句ばっかり言われるんだからね!!』

 

 と怒鳴りました。

 

 

 

 

こんな経緯を話された後、

 Aさんは母親についてこう言いました。

 

『母は、あの歳でも友達なんて一人もいないんですよ‼』

 『自分だって人付き合いできないくせに‼私の方がよっぽどましです‼』

 『私には暴言ばっかりなのに、ご近所にはいつもペコペコいい顔して‼』

 

 

 

 

 

お母さんもAさんもお子さんも

 人と積極的に関わるのが苦手で内向的というところが似ています。

 そして、現在のお母さんとAさんはその性格に対して

 とても"悪い性質"と考えているような言動をしています。

 

 

 

お子さんの気持ちはと言うと…

 

 

 

 

 

 

 

 

公園で一人で遊んでいるお子さんにAさんが

 

『友達と一緒に遊ばなくていいの?』と聞くと、

 

『いいの。』

 

『それで楽しいの?』

 

『うん、楽しいよ♪』

 

いつもそういう返答で、

 

実際にお子さんに不満は無いように見えるのだそうです。

 

 

 

 

Aさんは子供の頃、

 『母に無理やり外で遊ばされるのが苦痛で仕方なかった』と言っています。

 

それでもなんとかお母さんの価値観に合わせて

 我慢して生きてきました。

 

 

 

今、お子さんにも

 お母さんがAさんに向けた同じ不満を感じ、

 時々それをぶつけてしまう事に罪悪感を感じています。

 

 

ただ、今のお子さんの気持ちや価値観は、Aさんとは違います。

 

Aさんに合わせようとせず、

 好きな本を読んだり絵を描いたり、マイペースに好きな事をしています。

 

Aさんの勧めで習い事の体験に行っても、

 興味がない物に対しての意思をはっきり伝えるので、習い事は一つだけです。

 

Aさんから公園で子供たちの仲間に入れてもらうよう勧められても、

 気分が乗らない時に何度も言われれば、嫌がって怒ります。

 

 

 

 

 

親子関係では

 このように、何かが連鎖をしているかのような状況が起こることがあります。

 

 

それを"負の連鎖”と表現される事もあるようですが、

 実はこの連鎖は"癒し"が起こるチャンスでもあります。

 

 

 

 

なぜなら、子供の頃のAさんは

 お子さんのように一人で遊ぶ方が好きでした。

 

習い事も本当は好きな事意外はしたくありませんでした。

 

ですから、心の奥ではお子さんの気持ちに共感できるはずなのです。

 

 

現在はお母さんの価値観を優先して生きてきた事で、

 お子さんの性質をお母さんと同じ価値観から判断し

 不安に感じているのですが、

 

その不安は、お子さんが"一人で遊ぶのが好き”という事に湧いているのではなく、

 『自分と同じような子になってしまうのではないか』

 という不安です。

 

 

 

Aさんが感じているこの強い自己否定の対象である自分は、

 お母さんの価値観を生きてきたAさんに対してのものなので、

 

自分と同じような子 というのは

 母親の価値観を生きる子とも言えるのではないでしょうか。

 

 

 

そんなAさんは、現在も人間関係に悩み、

 自分に自信がなく、未来にも不安を感じています。

 

 

Aさんのお子さんは

 積極的に人間関係を作ることはしませんが、

 全く友達と遊べないわけではないし

 今までに大きなトラブルも特にありません。

 

時々、友達とのやりとりで嫌だったことはAさんに泣いて話したりもします。

 

 

その上、自分の幸せが何かをお子さんは素直に表現し、

 やりたい事は『~したい』と言い、

 嫌な事には『嫌だ』と言います。

 

 

こんなお子さんの現状は、母親の価値観を生きる子ではないと言えます。

 

 

 

 

 

大人になった今でも

 

親の価値観を押し付けられるのはこんなに辛いのに

 

子供の幸せは子供自身が選んではいけないのだろうか?

 

 

 

 

Aさんがこの事をゆっくり考え、

 心がどう感じるかを味わってみると、

 子供の頃に押し込められていた気持ちも

 解放することができるかもしれません。

 

 

 

 

お子さんに対しての不安やイライラは

 お子さんの性格のせいではなく

 自分はダメなんだ』と、

 幼い頃から傷つき続けたAさんの心の声です。

 

 

母親への怒りも

 『もう、お母さんの価値観にこれ以上振り回されるのは嫌なの!早く気付いて!』

 というAさん自身に向けての心の悲鳴なのです。

 

 

 

 

お子さんの存在を通しての経験が、

 そんなAさんの心の奥の想いを

 伝えようとしてくれているのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

子供の気持ちを理解しようと

 

向き合ってみること…

 

それは自分自身を癒すこと…

 

 

そんな愛による可能性が

 

親子の"連鎖”の中には隠れているのです♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2017 / 11 / 25                 kyoko